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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)763号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所え差し戻す。

理由

辯護人入向山隆、同佐藤利雄の上告趣意第一點について、

舊、刑訴法第三六〇條第一項の規定によれば、有罪判決の理由には罪となるべき事実を判示すべきことを命じている。そしてその罪となるべき事実とは、犯罪構成要件に該當する具體的事実であって、法令適用の基礎となるべき事実を指すものである。從って改正前の刑法第五五條の連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには、各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず、數多の行爲に共通した犯罪の手段、方法その他の事実を具體的に判示する外、その連續した行爲の始期、終期、同數等を明らかにし、且つ財産上の犯罪で被害者又は賍額に異同があるときは、被害者中或る者の氏名を表示する外、他は員數を掲げ賍額の合算額を表示する等これによって、その行爲の内容が同一罪質を有する複數のものであることを知り得べき程度に具體的であれば足るものであることは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第九二號同年一二月四日判決参照)然るに右刑法第五五條は、、昭和二二年法律第一二四號を以って削除せられ同年一一月一五日以後の犯罪行爲には適用せられないのである。從って右日時以後における複數の犯罪行爲を判示するには、その行爲が同一罪質であり、手段、方法等において共通した分子を持つものであっても、その各個の行爲の内容を一々具體的に判示し更らに日時、場所等を明らかにすることにより一の行爲を他の行爲より區別し得る程度に設定し、以って少くとも各個の行爲に對し法令を適用するに妨げなき限度に判示することを要するものといわねばならぬ。然るに原判決は、判示のごとく、單に複數の行爲に共通する始期と終期とを掲げ犯罪行爲の内容等をすべて別表に讓り、しかもその別表には日時、回數等の記載がないのであるから、從って別表記載の賣渡行爲が數人の買受人中の一人又は數人に對し、同時又は數回に行われたものであるか否かを窺い知ることができない。すなわち原判決の判示では要するに犯罪行爲の個數、換言すれば一の犯罪行爲より他の犯罪行爲を區別してこれを特定し以って各個の行爲に對し法令を適用すべき基礎を看取するを得ない。されば原判決の判示は判決の理由を具備しないものというべく、本論旨はその理由があって原判決は破棄を免れない。(その他の判決理由は省略する。)

よって、その他の論旨については反斷を省略し刑訴法施行法第二條、舊刑訴法第四四七條第四四八條ノ二に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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